東京渋谷にとてもシックでおいしい『シノワ』というフランス料理店がある。
シノワ~chinois
はフランス語で中国のとか、中国人とかという形容詞で僕がフランスで耳にした最初のフランス語の一つなので親しみがある。
なぜこれがフランスで最初に耳にした言葉なのかというと、その当時はパリの街でよく人に指を指されて「シノワ!中国人」と言われた。
きっと戦後間もなく日本の街を歩いている西洋人は日本人にとってすべてアメリカ人に見えたのと同じで、多くのフランス人にとって僕は東洋人、そして東洋のどの国も違いは見えなくてすべて中国が代表、代名詞になっていた。
いまでこそテレビやインターネットのお陰で世界は狭くなったが、僕がフランスに住み始めた1973年にはパリの街に公衆電話は無くテレビも2チャンネルだけ、それも朝と夜の数時間しか番組が無かった。日本のあらゆる街には赤色の公衆電話があふれてテレビも朝から夜まで通しで複数のチャンルで番組が見られた時代である。今とは違って当時まだ海外旅行に行く日本人の数は少なく、当然フランスにも今程の日本人は見られず、日本がエコノミックアニマルとして世界に名を成し始めた頃である。19世紀末から20世紀初めにかけてのパリ万博で浮世絵と共に日本文化がフランスの知識人、芸術家の間でもてはやされ注目された時代も終わって特に一般のフランス人には東洋=中国という意識しかなくなっていた。驚くべきはフランスとモナコのように日本も中国大陸の一部であると信じているフランス人に何人も出会った。
話が横道にそれてしまったがこの僕にとって懐かしい思い出が一杯の「シノワ」という言葉のレストランは渋谷のビルの中にある。室内のしつらえがこの名の通り西洋を基調としたなかに東洋趣味(シノワズリ~chinoiserie)をうまく生かしたシックで品のいいお店でそこでいただける数々のフランス料理にもまた東洋(主に日本なのだが)がうまく感じられて僕の大好きなお店の一つになっている。この『シノワ』のオーナーの後藤さんは知る人ぞ知る有名なソムリエで食に造詣が深くその上にクラシック音楽がお好きなシックで品のある若い男性である。シノワは渋谷と銀座に2店舗あってそれぞれが大変繁盛している。
そこに今月3軒目の店が開店した。この店の名前はシノワではなく『ヌガ、le nougat』という。皆さんご存知のフランス菓子「ヌガ」である、が、名前の由来はフランス菓子ではなくて僕の歌のレパートリーの中の『ヌガ』である。僕が随分以前から懇意にして頂いているご夫妻に連れていただくお店がシノワで、そのご縁で昨年シノワで歌う機会を得た。そして3件目の店に僕の歌の題名が付き、店の看板には僕のCDのブックレットにのせてあるあの不思議な象を選んで下さった。ちょっと余談だがこの象のイラストは僕の息子がパリの自宅で描いた絵で、よくみて頂くと歌の内容通り象がシャワーを浴びている場面が絵になっている。1月13日の『ヌガ』の開店パーティには招んで頂いただき歌った。ヌガは銀座松坂屋の3本裏の通りにあるフランス風ビストロでシノワ同様においしいワインが豊富に揃っている。料理はシノワと比べていわゆる家庭料理、普通フランスでみんなが気軽に食べる料理が揃っている、それも前菜、メイン、デザートを含めて60種類もの品が揃っている。店内はシノワとは趣が異なりビストロの名にふさわしく気軽に入れる雰囲気があって僕が今までに行った事のある日本のどこのフランス風ビストロよりもよりパリ的でパリに帰ったような気分になる。といっても日本にありがちな「あんた、ここはフランス料理の店どっせ、わかったはりまっしゃろな、フランスどっせ、日本とは違いまっせ!」というような押し付けがましい勘違いは店の何処にも無く、もひとつ言えばやはりシノワと同じく、素晴らしい日仏カップルで生まれた家庭の様に二つの文化が気持ち良く、仲良くそこにある。料理はフランス、もてなしは日本というように。それで肝心のお料理は、あのおいしいシノワの3番店なので特に驚く事は無いのだが、それでもおいしい!!ほんまにおいしい!
僕が先日ご馳走になった時のメニューを書いてみると、
デザートは
食事中お酒の飲めない僕はフランスのガス入りミネラルウオーター、バドワを飲んだ。Badoit バドワが飲めるんです!ヌガでは!何とようけ食べて!と思われるだろうが二人で分けました。念のために。それでもお腹いっぱいにいただきました。1人前がちゃんとした量で出てくる。一つ一つのお皿に満足いく様に量はしっかりしていてこれも嬉しいことの一つ。すてきなマダムと気持ちのいい若いギャルソンが揃ってヌガの料理をより楽しく、よりいっそうおいしくいただける空間が出来ている。東京にいつもいない事がとても残念!いれば毎週通うのに!皆さん、どうぞ僕の分もおいしく、楽しんで来て下さい!